2024/07/28 20:00
石川:このSNSの時代では、どうしても可視化しやすいフレームに目がいってしまうと思うんですけど、伊藤さんもおっしゃったようにレンズの方が眼鏡の意義が詰まっている。でもなかなか可視化できないので、そこを発信することは難しいですよね。
伊藤:眼鏡のことを知れば知るほど、検査だったり、調整や加工といった可視化できない部分の方が重要だってことが分かってきて、好みもあるので万人に向けた最適解というのは難しいんですけど、見えない部分が大事なんだよというのは伝えたいところではありますね。
石川:伊藤さんとお話をしていて思ったのですが、眼鏡ってコーヒーやワインにも似ているのかもしれません。いずれも見た目の特徴は、大きく変わらないけれど、生産背景やバックボーンが可視化されていて、個々に根強いファンがついている。
伊藤:確かに。香りや原料、焙煎といった目では見えないディテールによってちゃんと差別化されていますよね。発信のヒントがそこにあるのかもしれないですね。個人的に、SEESAW SPECTACLESの雰囲気はヨーロッパなどの眼鏡屋さんを連想させられます。カウンセリングを大事にしていて、まずは、お菓子と紅茶をいただきながら話すようなリラックスしたムードの店内には眼鏡はほとんど置かれていない。日本ではとにかく商品がたくさん並んでいて、どんどんかけてくださいというスタイルが定番ですが、製造まで行う大型店になればなるほど選択肢が多すぎる一方で、ブランドといった目安がないので選ぶのが難しい。これまでそういったお店で買い物をされてきた方からすると、商品数が少ないことにまず驚くし、丁寧にカウンセリングしてもらえることにも驚く。さらにはサイズのことまでお話ししてもらったら本当に特別な体験になりますよね。
石川:僕も初めてのお客様がいらっしゃったらしばらくはあえて声をかけないようにしています。まずは、その人がどういった形を選ぶんだろうと観察する。そこからカウンセリングは始まっていて、2、3個試したあたりから話かけています。店頭に並べているプロダクトは、あくまでインデックス的な役割で、この辺りがお好みであればそれに近い引き出しを開けようかなというような感覚です。
伊藤:そういう距離感や持っていき方は経験値がないとできないですよね。
石川:僕にとってお客様に本当に似合うものを見つけてもらうことの方が大切で、だからこそバイイングもブランド重視というよりは、このサイズはどこで揃うんだろうというようなことを念頭に置いて行っています。「ESCHR (イシュー)」という理論は、既存のボクシングシステムをよりカジュアルに伝えるための理論で、なるべく簡潔に直感的に理解してもらえたら良いと思っています。きっとフレームにサイズが書かれていること自体が初体験という方も多いでしょうし、そこが分かるともっと眼鏡が選びやすくなる。その体験はオフラインの店舗ならではのものだと思っているので、できるだけ残していきたいです。
伊藤:こうやって色々と考えている眼鏡屋さんがあるということをもっと知ってもらいたいですね。デザインのバリエーションはある程度浸透していると思いますが、もっとサイズや調整、検査など細かな目に見えないところにこだわって選んでくれるお店があるということ。洋服だと、日常着と晴れの日の服で買い物をするお店を使い分けると思うんですけど、眼鏡ってまだそこまで認識されていないと思うので。いろいろなコンセプトを持って提案してくれるお店の中から、ライターという職業を通して、選択肢を並べることで世界が広がるということを伝えられたら嬉しいですね。
石川:確かに眼鏡って伝えられていない情報が多いですよね。視覚的に受け取りやすい情報はフレームくらいで。
伊藤:だからこそ、レンズにも色々種類があって、選び方によって見え方も全然違うということを伝えたいです。ZEISS(ツァイス)なんかは明らかに他とは違う見え方をするし、良し悪しは人それぞれだと思いますが、そもそも選択肢があることもなかなか知られていないですからね。
石川:レンズの難しいところは他者と感覚を共有できないことですよね。無責任な言い方になってしまいますが、どれだけ検査をしてもお客様の見え方を僕が理解できることってないんですよ。それはお医者さんも一緒で、その人の見ている世界はその人のものでしかないので。だから、どうしても自分の主観や他との比較を言葉で説明することしかできないから、難しいのかなとは思います。
伊藤:しかも良く見えることが正義というわけでもないですしね。
石川:そうそう。個人的には都内なら視力は0.8くらいの方が生活しやすいと思っていて、今使っているものがちょうどいいというお客様でも、検査をしてみると0.5しかなかったりするということもあります。試しに1.0のレンズをつけてみると、「こんなに見えるんですね!でも、ここまで見えなくてもいいです」ということも多い。人それぞれ心地よい見え方が違うので、そこを判断するのは慎重になりますよね。
伊藤:そうなんです。私の場合は、用途によって心地よさや求める度数が違うので、眼鏡がどんどん増えてしまいます。
石川:なんだか、状況に応じて道具を変えるアスリートみたいですね(笑)。
伊藤:その点でも、「ESCHR (イシュー)」というサイズ選びの定義は、レンズ選びにも直結していますね。自分にあったサイズを選ぶことで、レンズを有効活用できる。ただ似合うというだけでなく、“見る” という機能においても心地よい眼鏡選びができると思います。
石川:僕自身が大切にしていることを言葉にしてもらえて嬉しいです。
伊藤:こういった伝えることの難しい概念を、お店として提案されていることも素敵です。眼鏡選びの最適解は人の数だけあるので明言はできないですが、私の個人的な感想としてさまざまな選択肢や想いを持ったお店をこれからも紹介していけたらと思っています。
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SEESAW TALK with Mirei Ito vol.1 メガネへの価値観
SEESAW TALK with Mirei Ito vol.2 SEESAW SPECTACLESの印象
SEESAW TALK with Mirei Ito vol.3 メガネの魅力と見えない価値
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プロフィール
伊藤美玲(いとう みれい)
「眼鏡で、きれいになる」をライフワークに、眼鏡の専門誌「MODE OPTIQUE」や「文春オンライン」、「Forbs JAPAN」、「CREA WEB」など幅広いWEBメディアを中心に記事やコラムを執筆している。
Instagram: @eyewear_note
文:市谷未希子
写真:猪原悠